インドネシア地熱発電プロジェクト。
海外投資保険の契約締結へ向けて。
INTRODUCTION

日本貿易保険(以下略称・NEXI=Nippon Export and Investment Insurance)は、日本企業が貿易取引や海外投融資を行う際に付随するリスクを軽減、カバーするため、多彩な保険商品を取り揃えている。その一つが海外投資保険。その名が示すように、出資に対する保険であり、日本企業が海外で子会社や合弁会社を設立した際、戦争やテロ行為、自然災害といった不可抗力事由によって事業を運営・継続できなくなることによる損失をカバーする保険である。今回、NEXIはインドネシアにおける地熱発電プロジェクトに出資した日本の大手総合商社との間で保険契約を締結。ここではその契約締結に至るまでの奮闘の軌跡を追った。

PERSON
宮澤 節保Misaho Miyazawa

営業第一部 投資保険第一グループ

2018年入社/政治経済学部経済学科卒
入社後、営業第一部 輸出保険第一グループにて技術提供契約や機械設備・鉄鋼製品の輸出契約の保険引受に従事。2020年より現職。東南アジア、中東向けの海外投資保険及び海外事業資金貸付保険(劣後ローン)の引受を担当している。

再エネ事業会社への出資に対する海外投資保険

急速な経済成長を遂げつつあるインドネシア。コロナ禍の2022年においても経済成長率は5%超を記録し、9年ぶりの高成長となった。そんな経済成長に伴い、増加しているのが電力需要である。この需要に応えるため、インドネシア政府は新規電源の開発を推進。更に、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を強力に推し進め、2025年までに全電力における再生可能エネルギーの割合を23%へ引き上げることを掲げている。
再生可能エネルギーの中でも、世界第2位の資源量を有しているのが「地熱」。現在、インドネシア国内でも多数の地熱発電プロジェクトが推進されており、今回NEXIが付保した海外投資保険も、この地熱発電に関わるものだった。

本プロジェクトの発端は、担当した宮澤が入社した2018年に遡る。
丸紅株式会社(以下、丸紅)、国内電力会社、インドネシアの電力会社が共同出資するPT. Supreme Energy Rantau Dedap社が、インドネシアで地熱発電所を建設・所有・操業するプロジェクト(ランタウ・デダップ地熱発電プロジェクト)への民間金融機関からの融資に対し、NEXIが保険の引受を決定した。
プロジェクトは、発電容量98.4MWの地熱発電所を建設し、30年間にわたりインドネシア国営電力会社に対して売電するというもの。2018年に発電所の建設を開始し、2021年12月から商業運転を開始した。
本プロジェクトを担当した宮澤は、投資保険第一グループへの異動から半年後、2021年春より本プロジェクトの投資保険締結に向けて動き出すこととなった。

「最初に融資保険を締結し、その後、投資保険の利用を検討されるというのは一般的な流れです。融資保険と投資保険はカバーできるリスクが異なります。融資保険は信用リスクとカントリーリスクによる貸付金の回収不能リスクをカバーするのに対し、投資保険はカントリーリスクによる出資金の毀損リスクをカバー。投資保険は出資に対する保険ですから、PT. Supreme Energy Rantau Dedap社に27.4%出資している丸紅の出資持分について海外投資保険を引き受けるという案件でした。」(宮澤)

最終的に、この保険契約締結に至るまでは約2年間もの月日を要した。この間、宮澤は両者の着地点を求めて、粘り強い交渉を重ねていくことになる。

複雑なスキームを紐解き、引受リスクを明確にする

宮澤の主な担当業務は、海外投資保険、海外事業資金貸付保険(劣後ローン)の新規引受と、既契約の契約更新や内容変更等のモニタリングである。顧客から保険利用の打診があると、案件内容、投資スキーム等の条件や希望の保険申込内容をヒアリングし、案件ごとにオーダーメイドの保険設計を行っていく。必要な情報が揃った後に、リスク審査用の資料を作成し、社内外の関係者との協議・調整のフェーズに進む。リスク審査が終了し保険の引受が決定すると、正式に保険契約を締結するというのが、一般的な業務の流れだ。
今回の案件も同様の流れだが、対象となるのはカントリーリスク。政治・経済、社会情勢、自然災害などの変化に起因するリスクであり、インドネシアのような新興国への投資は、高い経済成長が期待される反面、一般的にこれらリスクが伴うとされている。

「今回は、本プロジェクトにとって最適な保険設計を行うことと、保険引受のためのリスク審査のプロセスにおける関係者間の調整が主な役割でした。まず保険設計ですが、お客さまが望むリスクカバーを実現しつつ、NEXIとして適切なリスク引受となる条件での保険設計が求められました。本件はインドネシアのカントリーリスクによって事業会社が損害を受けた際、被保険者の出資持分について発生する損失を填補するというもの。たとえば、インドネシアは地震が多いため、自然災害で売電事業が継続できなくなったとき、その損失を填補する。さらに、既定の条件を超える範囲についても追加でリスクを引き受けたため、当該リスクの内容について特に詳細な情報整理を行い、社内審査部門とも検討を重ねました。」(宮澤)

今回、リスク審査における難題の一つとなったのが、宮澤が指摘した「追加で引き受けたリスク」。売電契約上の義務違反等によって売電契約が解除され、事業が継続できなくなった際、インドネシア国営電力会社が電力資産買取の義務を負っているにもかかわらず、当該義務が履行されないリスクのカバーを追加した。

複雑なスキームを紐解き保険引受の対象とするリスクを明らかにしていくこと、顧客をはじめとする関係者と協議し、納得を得ながら保険契約の条件を固めていくことが宮澤の役割だった。

案件を立体的に、多角的に、俯瞰的に見る視点

2023年に入り、本プロジェクトは佳境に入った。粘り強く、丁寧な説明を積み重ね、顧客の理解・納得を得て進めたオーダーメイドの保険設計は整った。リスク審査のために確認すべき条件は多かったが、すべての論点を整理。また今回の地熱発電プロジェクトは、宮澤にとって初となるプロジェクトファイナンス※案件であり、その契約条件に関しても知見を深めることができた。そして、2023年3月末、ようやく海外投資保険の契約を締結。2年間、走り切った充実感があった。顧客からの「尽力してくれてありがとう」という感謝の言葉が何よりも嬉しかった。

「今回のプロジェクトは、私にとってターニングポイントとなる案件でした。これまでも大規模プロジェクトの保険引受は多く担当してきましたが、今回は保険契約の内容や資金拠出スキームが非常に複雑だったため、学びながら試行錯誤し、NEXIにとっての適切なリスク引受を徹底して考えた時間だったと思います。その過程で、これまでとは異なる視点を身につけることができたと思います。それは、案件を立体的に見ること。言い換えれば、多角的かつ俯瞰的に見ることです。ここで得られた知見を今後も磨いていきたいと思っています。」(宮澤)

宮澤は、大学時代にシンガポールへの留学を経験している。そこで実感したのは、日本企業が生み出した製品や技術の多くが、海外の人々の生活や社会経済を支えていることだった。その経験を通じて、日本企業の海外展開に携わる仕事に就きたいと考えていた。
NEXIは個別企業やセクターの垣根を越え、貿易保険を通じて日本企業の海外事業展開を支援できる点に惹かれ入社を決めた。今日のやりがいも「海外進出をサポートしている実感」の中にあるという。

「気候変動やデジタル化、地政学リスクによってビジネス環境が変化する中、貿易保険の制度にも変化が求められてくると思います。日々、担当業務に集中していると、つい視点がミクロになってしまいがちなのですが、これからは意識的に広い視野と高い視座、そして深く幅広い知識を身に付け、新たな保険種の開発など、潜在的なニーズに応えていけるよう成長していきたいと思っています。」(宮澤)

社内外で「あの人に任せれば大丈夫」と言われる存在を目指すという宮澤。今回のプロジェクトを機に、また一つ成長の階段を駆け上がったことは間違いない。

※プロジェクトファイナンス:返済原資をプロジェクトが生み出すキャッシュフローに限定したファイナンス