「シールドマシン」の輸出取引。
日本企業が世界で活躍するために。
INTRODUCTION

日本貿易保険(以下略称・NEXI)大阪支店では、多彩な保険商品の提供により西日本エリアの中堅・中小企業の海外事業展開をサポートしている。
今回取り上げるのは、トンネル掘削機であるシールドマシンの海外輸出に伴うリスクをカバーする保険契約の締結。保険金額および保険期間ともに、大阪支店としては最大級の保険引受だ。
この契約締結に奔走したのが、新卒入社3年目の洲鎌里南である。しかし、決してスムーズに締結に至ったわけではない。顧客に寄り添い、海外展開を進める企業に「安心」を提供したいという洲鎌の想いが結実した案件だった。

PERSON
洲鎌 里南Rina Sugama

大阪支店 営業グループ
2020年入社/言語文化学部科卒

新卒入社後は本店営業第一部にて機械設備や鉄鋼製品の輸出契約及び技術提供契約の保険引受業務に従事。2021年より現職。中小企業支援、包括保険の引受業務等を担当している。

新設会社からの保険契約の打診

NEXIは、日本企業が行う対外取引において生じる、民間保険ではカバーできないリスクをカバーする多彩な保険商品を提供している。その目的は、貿易取引や海外投資を行う際に付随するリスクを軽減し、企業の海外展開を促進することだ。
各種保険商品のなかで、最も保険料収入のボリュームが大きく、保険料収入の約4割を占めるのが「貿易一般保険」。これは日本の企業が外国に輸出、仲介貿易、または技術提供を行う場合に、戦争・テロ・輸入制限等といった不可抗力や取引先の破綻等によって、船積みできないことによる損失および、船積みまたは技術供与した後に代金回収不能となる損失をカバーする保険だ。
企業が海外と取引する際に最も懸念されるリスクをカバーする保険として、数多くの企業に利用されている。大阪支店に所属する洲鎌も、入社以来、この「貿易一般保険」の引受業務に取り組んできた。

「貿易一般保険をはじめとする輸出保険を利用しているお客様のフォローが活動の中心になります。新規の保険利用や既存の保険契約の内容変更等のご相談があった際に、輸出取引の内容について詳細をお聞きした上で、保険の申込をご案内します。また、初めて保険をご利用いただくお客様には、貿易保険制度の概要や各種保険種の違いを説明し、どの保険がお客様に適しているかを提案しています。また、NEXIでは貿易保険の普及と利用促進のため、全国の地方銀行や信用金庫と提携し、中堅・中小企業に対する支援強化を進めており、それら金融機関からの情報を基に、お客様の海外展開を貿易保険によってサポートしています。」(洲鎌)

活動の中心は中堅・中小企業支援であるが、2021年秋、洲鎌は新たに設立された会社から貿易保険の新規利用の打診を受けた。
新会社は、川崎重工業株式会社と日立造船株式会社が出資し、シールドマシン事業に特化した地中空間開発株式会社。シールドマシンは主に地下トンネルの掘削などに利用される工事用の掘削機。日本のシールド工法・シールドマシンの技術力は世界屈指とされており、世界のトンネル掘削で採用されている。地中空間開発株式会社は、親会社2社が半世紀にわたって国内外で培ってきたシールド工法技術を継承する会社であり、その技術力は国内外から高く評価されている。
洲鎌が打診を受けたのは、すでに台湾と米国へシールドマシン・関連部品の輸出が決まっていた取引への保険契約だった。しかし、保険契約締結に至るまで、洲鎌は厳しい局面に立たされることとなる。

リスクをカバーできる
最適な保険は何か

洲鎌が扱う輸出保険は「個別保険」と「包括保険」に大別される。
「個別保険」とは、輸出者にとってリスクが高いと感じる取引にのみ保険をかけることができる保険。もう一つの「包括保険」は、企業とNEXIとで基本契約を結び、反復継続的な複数の海外取引を包括的にカバーできる保険だ。
そして、当初企業側が求めてきたのは「包括保険」だった。

「輸出貨物であるシールドマシンは、大阪支店管轄のお客様の中では契約金額が大きく、製造期間も長い特注品であることから、どの保険が適しているかを見極めることに苦労しました。お客様としては、台湾と中国の関係性に係るカントリーリスクをカバーすることが主な目的の一つ。当初打診を受けた包括保険では、包括契約締結に際して、原則一定以上の輸出実績と反復取引が求められます。新会社は当然まだ輸出実績はない。さらに、包括契約のスタート時期は毎月1日との決まりがあります。ご相談を受けた時にはすでに輸出契約の締結時期が迫っており、希望されているスタート時期に間に合わせることは難しい状況でした。また、包括保険は保険料を安く抑えられるものの、カバー範囲・カバー率が固定であり、お客様側で自由に選択できないデメリットもあります。一方、個別保険では、包括保険のような基本契約の締結は不要であり、すぐに保険申込を進めることができます。しかし、包括保険に比べると保険料は高くなります。私は保険種それぞれのメリット、デメリットを明確にして、お客様と話し合いを重ね、直近の契約には個別保険を利用いただくことを提案しました。また、上長と相談し今後の包括保険適用の可能性についても検討を進めました。」(洲鎌)

新設された会社といえども、親会社2社には十分な実績があり、今後の事業展望も明るい。洲鎌は顧客が求める「包括保険」契約締結に向けて動いたものの、結果として、「包括保険」を適用することは困難であると判断され、顧客の理解を得て「個別保険」が締結された。
顧客ニーズに応えられなかった洲鎌の落胆は大きかった。しかし、洲鎌の保険引受業務がこれで終わったわけではない。洲鎌は当初から、継続的にお客様の輸出取引を貿易保険でサポートしていくために、最終的に「包括保険」の締結に繋げることを自身の目標としていた。

「個別保険」から「包括保険」への転換

年が明けた2022年初頭、洲鎌は顧客に向け「包括保険」の提案を開始する。
これまで、洲鎌と顧客とのやり取りは、コロナ禍ということもありすべてリモートでの対応だったが、一度顔を合わせて話をするため、洲鎌は一路、大阪から新幹線でお客様のもとへ。
担当者は「包括保険」の良さを理解しており、洲鎌の来社を歓待した。しかし、顧客側が保険契約変更の社内承認を取れるかどうかは不透明。というものも、すでに「個別保険」が適用されており、それでリスクヘッジができるのであれば、あえて「包括保険」に変更する必要性がないという意見もあったからだ。

「先方の担当者とは、私が本店で勤務していた時からの付き合いがあり、旧知の間柄。その縁もあって理解していただいたと思いますが、今後も継続的に輸出取引が発生するなら、包括保険をご利用いただくことがお客様のためになるのではないかと思いました。包括保険の中でも、転売が難しい特注品に対して船積不能リスクがカバーでき、様々な取引形態・決済条件に柔軟に対応できる貿易一般保険(企業総合)が最適であること、この保険がお客様の海外事業展開を持続的にサポートすることなど、お客様の立場に立って、想いを込めて説明しました。その場での包括契約締結には至りませんでしたが、後日、メールで包括保険の利用を希望する旨のご連絡をいただきました。提案した保険の良さを理解してもらえた上での包括契約締結だったと思います。大きな達成感がありました。」(洲鎌)

今回の案件は大阪支店が取り扱った保険契約の中で、保険料、保険期間ともにボリュームの大きなものとなった。確かな実績を築いた洲鎌だが、本人の意識はそこにはない。

「何かしらのリスク、不安を感じたお客様に、貿易保険によって安心を提供すること、お客様の海外展開・海外進出の背中を押してあげること。その役割を果たせたことにやりがいを感じています。ただ、貿易保険の認知度はまだ低いのが現状です。今後、日々の営業活動に加え、セミナーやイベントなどを通じて、多くの日本企業に貿易保険そのものと、その意義や重要性を知っていただくことにも注力していきたいです。保険というツールを使って、日本企業が世界で活躍できる環境を創造することが、日本の国力向上に貢献することにも繋がっていくと思っています。」(洲鎌)

その意志と情熱を持続させることで、洲鎌は着実に成長のステップを上っていく。