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西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS):新通貨“エコ”導入後の課題

    

審査部カントリーリスクグループ 大村 瑠雅1

 昨年12月21日に、フランスのマクロン大統領とコートジボワールのワタラ大統領は、ECOWAS2の共通通貨「エコ」の導入を決定した。ECOWASの内、CFAフランを採用している8ヵ国(西アフリカ諸国通貨同盟(UEMOA))については2020年中の導入が目標3。CFAフラン及びその関連制度は、UEMOAをフランスの管理下に置く植民地時代の遺物であると国内外から批判されており、UEMOA諸国は、政治的には今回の決定をフランスからの完全なる独立と受け止めている。本稿では、エコについて現在明らかとなっていることを紹介しつつ、同通貨導入に伴う経済面の課題を考察する。

1. CFAフラン:フランス管理の下、UEMOA経済の安定が維持

 CFAフランは1945年に、当時のアフリカのフランス植民地の共通通貨として導入された。1958年にこれらのフランス領が独立するまで、CFAは“Communauté Française d'Afrique(仏語で「アフリカのフランス植民地」)”の頭字語であったが、独立後は“Communauté Financière Africaine(「アフリカ金融コミュニティ」)”へと変更された(この歴史的背景は、昨今の批判の要因の一つとなっている)。

 UEMOAとフランスの通貨協定(1973年12月締結)4に基づき、CFAフランはユーロとの固定レート(1ユーロ=655.957CFAフラン)での交換がフランス政府に保証されている。また、外貨は地域中銀である西アフリカ諸国中央銀行(BCEAO)により供給されており、万一BCEAOの外貨が不足した場合は、フランス政府が不足分をBCEAOに移転することとなっている。その代わり、BCEAOの外貨準備の最低50%をフランス国庫に預け、また、同中銀の理事会にフランス政府の代表が在籍することで、UEMOAの外貨資金繰りはフランス政府の管理下に置かれ、UEMOAの経済安定性は保たれてきた。

2. エコ導入の収斂基準

 ECOWAS全体でのエコ導入が決定されたものの、同通貨への移行条件として各国は次の収斂基準を達成することが求められており、達成した国から順次導入されることとなっている。

(1) 年間のインフレ率を一桁台に抑えること。
(2) 財政赤字をGDP比4%以内に収めること。
(3) 中銀による財政赤字ファイナンスが前年の税収の10%以内であること。
(4) 輸入の3ヶ月分以上の外貨準備高を保有すること。

 UEMOA諸国は、上記収斂基準をほとんど達成していることからエコへのスムーズな移行が見込まれる一方、他のECOWAS諸国がこれらの基準を達成することは当面難しいと考えられる。例えば、基準(1)と基準(2)については、UEMOAの平均インフレ率は2016年から2018年にかけて年間0.1%~1%、2018年の財政赤字は平均GDP比3.9%であるのに対し、UEMOAを除くECOWAS7ヵ国の同期間の平均インフレ率は9.9%~11.4%、2018年の財政赤字は平均GDP比4.4%であった。なお、両基準を満たしている非CFAフランECOWAS国のトーゴとギニアを除くと、平均インフレ率は12%~13.8%、財政赤字は平均GDP比5.8%となる。この状況を踏まえると、ECOWAS全体でのエコ導入までは当面時間がかかるものと思われる。

3. エコ導入後の課題は、西アフリカ諸国の自立した経済安定性の確保

 エコ導入は、UEMOA諸国の植民地時代からの完全な脱却という意味で重要な一歩である一方、経済面においては課題が残る。同通貨導入に伴い、これまでCFAフランについて適用されていた、BCEAOのフランス国庫への外貨準備の預託と同行の理事会にフランス代表を在籍させる制度は廃止される。これによって、UEMOAはフランス政府の管理から離れることとなり、UEMOA諸国は自立して経済を安定化することが求められる。ユーロとの固定レートでの交換を引き続き保証するとマクロン氏は表明しているものの、現時点において協定等の書面の合意はなされていないため、同枠組への信頼が維持されるのかが懸念される。エコ導入後、西アフリカが経済の安定性を保てるかどうか、注目していきたい。

(2020年2月7日記)



1 本カントリーレビューの中の意見や考え方に関する部分は筆者個人としての見解を示すものであり、日本貿易保険(NEXI)としての公式見解を示すものではありません。なお、信頼できると判断した情報等に基づいて、作成されていますが、その正確性・確実性を保証するものではありません。

2 1975年設立。加盟国は、CFAフラン圏であるUEMOA加盟国のベナン、ブルキナファソ、コートジボワール、マリ、ニジェール、セネガル、ギニアビサウ、カーボヴェルデの8ヵ国、及び非CFAフラン国のガンビア、ガーナ、ギニア、リベリア、ナイジェリア、シエラレオネ、トーゴの7ヵ国の合計15ヵ国。

3 中部アフリカ諸国経済共同体(CEMAC)も共通通貨にCFAフランを採用しているが、UEMOAとは異なる通貨圏であり、新通貨の導入は予定されていない。

4 同協定は、締結当時のフランスの通貨であった仏フランとCFAフランの固定レートでの兌換性を保障するものであったが、1998年12月の欧州連合理事会の決定により、1999年1月にユーロが導入された後も、フランスは同協定を維持することとなった。

    
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