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トピックス

「重債務貧困国(HIPCs)向け債権の譲渡スキーム」に基づき対象債権の
譲渡が行われた場合の税務上の取扱いについて


2005年2月 1日

独立行政法人 日本貿易保険(NEXI)

 独立行政法人日本貿易保険(以下、「日本貿易保険」といいます。)は平成13年4月に設立された貿易保険業務を行う独立行政法人です。貿易保険とは、通常の民間の保険の対象とならない貿易取引や海外投資において生ずる取引上の危険をカバーする保険です。具体的には非常危険(為替取引の制限または禁止、戦争・革命または内乱等)や信用危険(輸出契約等の相手方の破産など)により輸出不能、代金回収不能等の事態が発生した場合の損失をカバーしています。日本の貿易保険制度は、貿易保険法(昭和25年法律第67号)に基づき通商産業省(現経済産業省)が所管してまいりましたが、その後中央省庁等改革における独立行政法人制度導入に伴い、貿易保険に関する業務をより効率的に行うことを目的として、当該業務は独立行政法人日本貿易保険に移管されました。

 現在、日本貿易保険では、たとえば外国の政府系企業が日本企業から買い付け取引を行うケースにおいて、日本の商社や銀行等が当該取引の決済資金を外国政府系企業に対し貸し付ける場合に、銀行等を被保険者として貸付債権金額に一定の付保率(90%程度)を乗じた部分の金額について貿易保険を設定しています。貸付債権の回収不能等の保険事故が発生し保険金を支払った場合には、日本貿易保険は当該貸付債権の付保率相当部分を被保険者である銀行等から代位取得し、残存部分は銀行等が引き続き保有します。このような政府系企業向け債権のなかには国際収支状況の悪化等により対外債務の返済が極めて困難な状況となった国に対する債権も含まれており、政府間交渉の場であるパリクラブ(<別紙2>参照)において債務救済措置が合意され、その後二国間の交換公文が締結され債務が免除される場合があります。しかしながら、パリクラブにおける合意から二国間の交換公文の締結までに相当の期間を要することも少なくありません。また、この間にパリクラブにおける債務削減交渉の対象債権を保有する銀行等と日本貿易保険の間において、以下のような諸手続を行う必要が生じ双方にとって相当の負担となっている状況にあります。

  1. 日本貿易保険は被保険者に対して、パリクラブにおける合意事項についての説明会を行います。
  2. 債務削減措置の対象となる債権のうち被保険者保有部分についての確定作業を行います。(被保険者から日本貿易保険に対して対象債権リストが提出され、その後日本貿易保険による照合及び確認作業を行います。)
  3. 債務削減を行う交換公文締結のための二国間交渉に先立ち、被保険者に対し債権者としての権利行使等の権限を日本貿易保険に委任するよう依頼します。(この委任により、被保険者の有している填補割れ債権についても、政府レベルで交渉、交換公文の締結により確定される債務削減措置の対象とすることができることになります。)

 そこで、パリクラブにおける合意に基づき100%債務削減がなされることが確実な重債務貧困国(Heavily Indebted Poor Countries: 以下、「HIPCs」といいます。)に対する債権のうち、被保険者が有する債権(貿易保険を付した輸出契約等に係る債権であって、保険契約上の填補部分を除いた部分(以下、「填補割れ債権」といいます。))を譲渡の対象とし、日本貿易保険が当該債権を有する被保険者から当該債権を一定価格で譲り受けるという制度(添付<別紙2>参照。以下、「債権譲渡スキーム」といいます。)を平成16年10月より導入したところです。この制度の導入により、パリクラブで債務削減の対象とされた債権を日本貿易保険に一元化することができ、パリクラブ及び二国間合意に関連するプロセスを効率化することが可能となります。

 日本貿易保険では、債権譲渡スキームの導入を円滑に進めるために、本件スキームに基づく債権譲渡取引に関する税務上の取扱いを明確化する必要があると考えています。本照会は、<別紙2>に定める手続及び基準にしたがって本件スキームの対象債権の譲渡取引が行われた場合の譲渡人(被保険者)の税務上の取扱いについて下記のとおりで差し支えないか確認させていただくものです。

 日本貿易保険は独立行政法人であり、被保険者である民間企業との間に資本関係や人的関係などの特別な関係はありません。したがいまして、両者の取引は独立した第三者間の取引であると考えられます。また、一般的に、独立した第三者間において種々の経済性を考慮して定められた取引価額は、法人税法上、合理的な価額として尊重されるものと考えます。このことは、本件債権譲渡スキームにおいて<別紙2>に定める手続及び基準にしたがって決定される譲渡価額についても同様であると解されます。
  したがいまして、譲渡者において債権譲渡スキームにおける譲渡損(債権譲渡スキームにおいて税務上の債権の帳簿価額の金額がその譲渡対価の金額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。)は、原則として、当該事業年度における損金の額に算入されると解して差し支えないでしょうか。

以  上

 

<別紙1>

パリクラブとは

 パリクラブは、対外債務の支払が困難となった債務国と、これに対して公的債権(政府・政府機関の借款及び政府・政府機関による付保民間債権)を有する複数債権国の代表が一堂に会し、債務の履行が可能となるよう返済期日を繰り延べる(リスケジュール、リスケ)など、改めて履行条件を設定し直す目的で交渉する場です。
  また、債務返済要請に応じるには当該債務国に対するIMFの金融支援措置がとられていることが前提となります。 パリクラブでは、カット・オフ・デート(注1)、リスケ対象債権の範囲、リスケ対象期間、返済スケジュールについて合意されますが、繰延金利率については各国(債権国と債務国)の交渉に委ねられています。
パリクラブの合意に従って、各債権国は当該債務国との間で自国の債権額、繰延金利率を確定し、交換公文(E/N: Exchange of Note)を締結し、実施に移すこととなります。
  実務上はフランス大蔵省として運営にあたり、経済協力開発機構(OECD)加盟国18ヵ国(注2)及びロシアが恒久的メンバーとなっています。この恒久的メンバー以外でも、恒久的メンバー及び対象となる債務国の合意に基づき、対象となる債務国に対して債権を有している国が参加することは可能であり、その他にも、国際通貨基金(IMF)、世界銀行、地域開発銀行、国際貿易開発会議(UNCTAD),OECDがオブザーバーとして参加しています。

(注1) Cut-Off Dateとは
債務繰り延べの対象として、その日以前に契約調印、もしくは、貸付が実行された債権のみに限定し、その日以降の契約については、繰り延べの対象外とする日付のこと。
(注2) 経済協力開発機構(OECD)加盟国18ヵ国

アジア 日本
米州 米国、カナダ
欧州 フランス、ドイツ、オーストリア、ベルギー、デンマーク、スペイン、フィンランド、アイルランド、イタリア、スイス、ノルウェー、オランダ、英国、スウェーデン
その他 オーストラリア

 

 

<別紙2>

債権譲渡スキームの概要

1.譲渡対象債権

(1)譲渡対象債権に該当するための要件

 今回、日本貿易保険による譲受の対象とする債権は、HIPCs国に対して被保険者が有するパリクラブの対象となっている填補割れ債権です。

 具体的には、HIPCs国のうち、パリクラブにおける債務持続可能性分析において、既存の救済措置による債務の返済または履行の持続が不可能であると決定・承認された国および政府系金融機関等に対する債権を対象とします。

 HIPCs国のうち、パリクラブのDPにおいて債務返済が不能と決定された国につきましては、その後、世界銀行及びIMFによる調整プログラムを実施し、当該プログラムを完了した段階(Completion Point)で、平成12年4月のG7蔵相・中央銀行総裁会合の合意に基づき、G7各国が当該HIPCs国向け債権の100%削減を実施します。したがいまして、DPにおいて債務持続不可能と決定されたHIPCs債務国に対しては、事実上100%の債務削減が実施されることになるといえます。

(2)債権譲受の手続き

日本貿易保険による債権の譲受は、次の手続により行われます。

  1. 所定の様式に従い、被保険者と日本貿易保険の間で対象債権にかかる譲渡契約を締結いたします。
  2. 被保険者と日本貿易保険は、当該債権譲渡につき、「債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」(平成10年法律第104号)第2条第1項及び第5条第1項に定める債権譲渡登記を共同して行います。
  3. その後、日本貿易保険より被保険者に対し、対価(原契約の支払期日ごとに、日本貿易保険と被保険者の間で合意された価格に基づき算定したもの)の支払いを行います。

2.譲渡時期

 日本貿易保険による対象債権の譲受につきましては、対象債務国ごとにパリクラブにおいて既存の救済措置では債務返済が持続不可能と認定された時点 (DP)から、100%債務削減が二国間の交換公文上で確定するまでの期間に限り、譲渡申請を受け付けることといたします。また、当該期間中に申請がなかった債権については、以後日本貿易保険において譲受は行わないことといたします。

以  上

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